このカテゴリでは、床仕上材のひとつである石の特徴や具体的な納まり詳細図について色々と説明をしてきました。
前回は石の表面仕上げには色々な種類がありますよ、という話でしたが、全然床で採用する場合にはやらないような表面処理についてもたくさん紹介してしまいました。

このカテゴリで取り扱うのは床仕上材としての石だけなので、そうであればジェットバーナー仕上とジェット&ポリッシュを紹介すれば大体OKとなります。
だからと言ってそれだけ紹介しても何か変なので、結局は石材の表面処理方法を一通り紹介することにしました。

石はどんな石種なのかによって色や質感が大きく違っていて、さらに表面をどのように処理するかによって見え方が変わってきます。
また、同じ石種でも切り出す場所によって模様も違うため、綺麗に見せるためにどの石材を採用するかを調整したりもします。

ちょっと貧弱な語彙で申し訳ないですが、まさにスペシャルな仕上材と言えるでしょう。
こうした特徴は天然素材特有のもので、少々コストは掛かってしまうものの、それに見合うだけの完成度を見せてくれるはずです。

石材は床仕上材としても壁仕上材としても使われる材料ですが、床仕上材に求められる性能と壁仕上材に求められる性能は少し違います。
これは考えてみると当たり前のことですよね。
床仕上材としての石に求められるのは、大抵の場合は以下のようなポイントになってきます。

・防滑性能

・耐摩耗性

・意匠性

これは個人的な見解ですが、上にある項目ほど重要度は高いように思います。
これら求められる性能をもう少し簡単に表現すると、出来るだけ滑りにくくて耐久性があることが床には求められていて、その次に見た目があるという感じかな。

■安全性が最も重要

石の表面処理はどれもみな美しい。
これは本当です。
ただ、荒々しい仕上もあるし洗練された仕上もある中で、表面処理方法として最も洗練されて美しく見えるのは、恐らく本磨き仕上ではないかと思います。

もちろん割り肌仕上の荒々しさも魅力的で、採用する場所によっては本磨きよりもマッチする場合も多いのは間違いありません。
それでも、シンプルに仕上材としての美しさで考えると、やっぱり本磨きに軍配が上がるんじゃないかと思っています。

まあこれは勝ち負けを競うようなことでもないし、人によって好みも違ってくるので、ここで断言するような話ではありませんが…
建物の意匠性を重視するのは設計者として当然のことなので、どんな表面処理がベストなのかを考えるのは当然のことです。

ただ、最も美しい表面処理だからと言って、床仕上材として石を採用する際に、本磨き仕上を選択することはなかなか出来ないのが現実です。
建物を利用する方の安全性を考えると、どうしても本磨きではなく、ジェット&ポリッシュなどを選択せざるを得ないんですよね。

それはやはり見た目が最優先ではないからです。

■優先順位を考える

石材の表面処理を本磨きで仕上げた花崗岩の床は、確かにとても美しく、写真などで見ると非常に見映えが良いものです。
さすがに石を使っただけはあるな…という高級感もあって、パブリックスペースの床仕上材として採用したくなる気持ちは凄くよく分かります。

しかし、本磨き仕上の特徴として以前紹介したように、本磨き仕上は石材の表面にある凹凸がなくなるくらい綺麗に研磨するため、滑りやすいという特徴を持っています。
表面に艶が出るくらい磨く訳ですから、滑りやすくなるのは当然のことですよね。

防滑性能が重要

本磨き仕上の表面は水に濡れるとさらに滑りやすくなり、防滑性能としてはもう無いに等しい状態になってしまうんです。
そうなると、雨が降った日には誰かが転んでしまわないかどうか心配になって、滑らないようにマットを敷くなどの対応が必要になるかも知れません。

マットを敷くような状況では、せっかくの美しい床仕上面が隠れてしまうことになります。
滑らないように石の表面をマットで隠すとかになってしまうと、床仕上材として石を選定した意味があまりなくなってしまいます。
これではせっかくの石が勿体ないですよね

床仕上材に求められるのはまず性能であって、その性能を満たしていることを前提として、見た目にも気を遣うという順番なんです。
建物を利用する人の安全が一番大事で、そこを重要視しないで仕上材を選定したとしても、危険だなどの名目でやり直しになってしまう可能性が高い。

そうした部分を考えていくと、やっぱり床仕上材として本磨き仕上の石を選定するというのは、なかなか勇気がいることだと分かってきます。

この建物では意匠が最優先だから床が多少滑りやすくても我慢してください。

そういった強いポリシー(間違ってますけど)で設計をすることは、そういう姿勢も含めて大事なことだと思います。
でも建物が出来上がった後で、雨の日に転倒する人が年間数人出る、という現実の前にして「意匠優先」なんてとてもではないですが言えません。

まあ言うことだけは出来ますけど、その言葉にどれほどの説得力があるのか、という話です。

実際の話、建物竣工時は本磨きだった床を、改修でジェットバーナー仕上にした建物を私はいくつか知っています。
実際にやってみたら想像以上に滑りやすかったとか、あるいはクレームの嵐だったとか、そうした状況になって後から変えることにしたのだと思います。

これは結構情けない話なので、プロであればそんなことにならないように、きちんと優先順位を守った設計をしたいものです。