コンクリート壁に対して直接ボンドなどを用いて石膏ボードを張るのではなく、あえて隙間を設けてLGSを改めて下地として建てる。
こうした施工方針を採用した場合には、まずは設備配管や配線やコンセントなどを壁内に埋め込むスペースが出来ます。

これが大きなメリットのひとつで、コンクリートの動きが直接石膏ボードに伝わることがない状態になる、というもうひとつのメリットもあります。
コンクリート壁の種類によっては「構造スリット」が必要になる場合もあって、そこに石膏ボードを直接張っていく場合には注意が必要なんです。

構造スリットというのは、構造的にコンクリート壁の動きを柱に伝えないようにする、という重要な目的があります。
そうした目的を果たすために、柱と壁の切り替わり部分にスリット材を入れておくことになり、大きな地震が発生した際などに備えることになります。

ただ、実際に地震が発生した際には、そうなるように計画しているので当然ですが、柱と壁は違う動きをすることになってしまうんです。
動きが違ってくるコンクリート下地に対して、直接GLボンドを使って石膏ボードを張っていくことになる訳です。

もちろん常に動いている訳ではないので、GL工法で石膏ボードを張ること自体は施工的に全然不可能ではありません。
しかし、後々の壁仕上のことを考えた場合には、ひび割れの大きな要因になってしまうのであまりお勧めすることが出来ません。

若干話が別の方向に向かっている気がしていますが、今回はそのあたりについてちょっとだけ考えてみることにしましょう。

■一般的なGL工法の納まり

まず、コンクリート下地に直接石膏ボードを張っていく納まりを採用した場合には、下図のような状態になります。

一般的なGL工法の壁

これがGL工法の一般的な納まり図にになりますが、この下地に構造スリットが入る場合はどうなるかというと、こんな感じになります。

構造スリットがある場合

こうした状態になると、地震時にコンクリート壁と柱の動きが違った場合に、構造スリット付近で仕上にひび割れが入る可能性があります。
構造的に壁の動きを柱に伝達しないようにしているので、動きが違ってくるのは当然のことですよね。

動きの違う下地をまたいで石膏ボードが張られている訳ですから、そこに変な力がかかってしまうのは仕方がありません。
そうなると動きの違いは表層の仕上に出てきてしまうことに。

これがビニルクロス貼りであれば少し動きに追従するかも知れませんが、それにも限界があります。
また、塗装仕上を採用した場合はさらに条件が悪くなってしまい、かなりの確率で塗装面にクラックが入ってしまうことに。

こうした状況になった場合には、GL工法を中止して手前にLGS壁を建てる選択をすることになるかも知れません。

■ボード目地を入れるという選択肢

せっかく頑張って綺麗に仕上げた壁面なのに、下地の動きが違うことが原因でひび割れが目立ってしまう。
これはどう考えてもデザイン的にメリットが全くないことですよね。

だから当然のことですが、仕上の表層にひび割れ出てしまうような状況は、建物を造っていくプロとしてどうしても避けるべきなんです。
そのためにはどんな対応が必要になるかというと、先程も書いたようにGL工法を諦めてLGS下地を建てる選択肢がひとつあります。

そしてもうひとつの対応策として、下地の動きが違ってくる部分にあらかじめ目地を入れておく、ということも考えられます。
目地を入れるイメージはこんな感じ。

ボードに目地を入れる納まり

コンクリート下地が場所によって動きが違う場合、その違いが発生する部分に目地を入れることで、石膏ボードに目立つひび割れが入ることを防ぐことが出来ます。
今回の場合で言えば、構造スリットが入っている部分に目地を入れることになります。

仕上表面のひび割れ対策としては非常にシンプルで、これ以上綺麗に見せることがなかなか難しいのが現実なんですよね。
こうした目地というのはそのまま建物を利用する方に見えてしまう訳ですから、デザイン的にはあまり入れたくないはず。

正直な意見を言うと、建物を利用する方が壁の目地を気にする確率はかなり低いのではないか、という気がしますが…
それでも、壁の途中で唐突に目立つ縦ラインがある状態というのは、どう考えても美しいとは言い難いものです。

だから意匠設計者としては、出来るだけこうした目立つような目地を入れない納まりで建物を造っていきたいと考えます。
後々どうなるかはわからないので、とにかく目地を入れないで欲しいというのが設計者としての本音ではないかと思います。

だけど目地を入れないと後で確実にひび割れが発生してしまうので、やっぱり目地を入れるしかないか、それともGL工法はやめるか…
などなど、シンプルな壁の仕上とは言っても、設計者や施工者は色々な問題に対応するように考えているものなんです。

設計者も施工者もプロとしてやっている訳ですから、こうして色々考えるのは当たり前のことではありますけど…