工場で製作する際の問題点も

前回の説明では、建物の壁種のひとつである押出成形セメント板について、その概要と壁としてどのような特徴があるのか、という話を取り上げました。
押出成形セメント板は呼び名が長いので、出来るだけ効率良く呼ぶことを目的として「ECP」と省略されることもあります。


・耐火性能を持った建材である

・高い耐震性を持っている

・工場で製作してくる為、工事が早い

・中空構造の為、遮音性能もある


押出成形セメント板の特徴は上記のような点にあります。
しっかりと壁として求められる性能を満たしつつ、工場で製作してくる製品なので現場では取り付けるだけという手軽さがある。

このあたりの特徴はALCとほぼ同じで、出来るだけ現場でやらなくて済む作業は工場でやるという考え方がベースにはある訳です。
工場で製作してきた製品を現場では取付していくだけの状態にしておくことによって、鉄筋コンクリートで施工した場合の工期を短縮していきます。

鉄筋コンクリートで壁を構成する場合のことを少し考えてみると…
まずは鉄筋を配置した後で型枠を適切な位置に並べ、現場でコンクリートを型枠に流しこんでいき、強度が出たら型枠を解体する。

このような手順で鉄筋コンクリートの壁は作られますが、完全に壁が完成するまでには多くの手順が必要になってきます。
また、壁の完成までに必要な工種が多岐に渡るという問題もあり、それが余計に時間が掛かる原因ともなっています。

型枠を現場で作るのは大工さんはで、当然型枠だけを作る役割を担っています。
そして鉄筋を加工して現場で配筋していくのは鉄筋屋さんの仕事で、こちらも同じように鉄筋工事だけを担当することになります。

そして型枠大工さんと鉄筋屋さんは完全に別々に工事を請け負っていて、他の工種について作業をすることはありません。
こうした受注形態になっているので、現場ではそれぞれの作業工程をきちんと管理して、適切な計画をたてて工事を進める必要があるんです。

それが出来ない状態で工事を進めると、鉄筋屋さんが作業を進めて壁の配筋が完了したけれど、返しの型枠が全然出来ていないというような状況になってしまいます。
せっかく鉄筋を組み立てても型枠がなければ壁のコンクリートを打設することが出来ず、結果として工事がなかなか進まないという話になります。

これが工種が多岐に渡る場合の問題点です。
もちろんこうした調整を完全になくすことは出来ないので、結局は調整していく必要はあるんですけど、それでも出来るだけ少ない方が効率は良いことも事実。

そうした現実がある中で、ALCや押出成形セメント板はどうなのかというと、工場で製作してきたものを専門の業者さんがどんどん取り付けていくだけ。
サイズが合っていればという前提はあるものの、色々な業種が入らない分だけかなりシンプルな流れになります。

もちろん鉄骨に下地が仕込んであることが前提になりますけど、下地さえしっかりと出来ていれば、後はどんどん取り付けていくだけでOK。
様々な業種が入り乱れて施工を進めるよりも、現場としては工事がスムーズに進みやすいという大きなメリットがあるんです。


■事前の検討が大変

と、ここまではALCや押出成形セメント板の良い面を強めに書いてきました。
ここで書いた話はあくまでも理想的な流れに沿って計画が進んだ場合で、現実はなかなか計画通りには進まないというか、実際には色々な問題点があると思います。

例えば、これは以前にも同じようなことを書いた気がしますが、工場で製作するための大きさや納まりを事前の検討しておくのが結構大変という問題があります。
工場で決まったサイズで製作する訳ですが、当然工場で製作するにもある程度の時間が必要なので、かなり先行して検討と発注が必要になります。

工場生産品は事前検討が大変

工場で製作してくるから早いですよ、となる為には、その分だけ図面での検討を早くスタートする必要があるんです。
これは現実問題として、納まりを検討する側にとっては結構キツイことではないかと思います。

適当な検討で発注をかけてしまい、出来上がった製品が全部使いものにならないとか、極端なことを言うとそんな寂しい状況もあり得ます。
そうなると莫大な追加コストがかかることになってしまい、ちょっと笑えない状態になってしまいます。

私のもらっている給料をはるかに上回るくらいの金額が、検討不足によって無駄になってしまうこともある、という怖さも…
事前の検討は本当に大事なんですよね。


■発注済みでも変更はある

また、充分に納まりを検討をした後に発注した場合でも、発注以降の変更というのが発生する可能性がある、という問題もあります。
発注をかけた後で変更になった場合でも、図面だけであればすぐにでも修正することが出来ますよね。

しかし図面をすぐに修正したとしても、それとは違う寸法の製品が今現在工場で作られているため、図面修正にはあまり意味がありません。
出来上がった製品を現場に持ってきたとしても、修正前のサイズになるので、きちんと納まらないという状態に。

そんな場合、結局は以下の選択肢の中から色々なしがらみやバランスを考えて、どちらかを選んでやっていくしかありません。


・変更は出来ないと突っぱねる

・諦めて新しく製作をやり直す


施工者側の意見としては「もう製作をかけてるので変更は不可能です」という正論を全ての場面で押し通せば良いだけです。
とは言っても、施主の強い要望があった時に、そうしてアッサリと断るのが良いのかどうかを考えると、それが不正解の場合もあるはずです。

バランスを考えて判断するというのはそう言う意味で、サラリーマンだとそういう判断は色々とありますよね。

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