前回は床タイルの一般的な納まりと、下地であるコンクリートスラブを下げておくことについて説明をしてきました。
下げておいたスラブの上に敷きモルタルを施工して、その上に床タイルを貼っていく、というオーソドックスな納まりです。

なぜ敷きモルタルを施工するのかというと、ひとつには、そのほうが下地の精度が高くなるから、という理由があります。
床コンクリートスラブの天端を決められたレベルで平滑に施工するのは、実際はかなり大変なことなんです。

コンクリートを打設した際にある程度レベルが決まってしまう訳ですけど、やってみるとそんなに細かい精度なんて出せないんですよね。
図面の世界では、断面図内で2本の直線で表現されることになるコンクリートでも、現実の世界では直線なんてことはありません。

コンクリートスラブの上に水が溜まっている状態を見たことがあればイメージ出来ると思いますが、実際には結構デコボコしてるんです。
そうした精度の下地があって、その上に直接タイルを貼っていくというのは、最終的な見た目の点から考えると結構キツイことなんです。

図面ではうまく行きそうな気がするんですけどね。
現実はなかなか図面の通りとはいかないので、ある程度逃げのある納まりを考えていく必要があるんです。

■敷きモルタルなしの場合もある

ただ、敷きモルタルを施工しないで床タイルを貼るというやり方は、かなり難しいとは言え絶対に不可能ということではありません。
場合によっては敷きモルタルを施工せず、コンクリートスラブのレベルを一発で決めることもあります。

納まりとしてはこんな感じのシンプルなものになります。

コンクリート直張り

貼付けモルタルは5mm~10mm程度とし、タイルの厚さは採用した製品によって変わりますが10mm前後。
なので、コンクリートは15mm~20mm程度下げておけば、直貼りで納めることが出来るという計算になります。

断面をCADで描いている時の「こんな納まりで本当に大丈夫かな…」と思う不安感は相当なものです。
絵に描いた餅という言葉が頭をよぎりそうですけど、少なくともこの納まりが全く不可能という話ではありません。

図面で表現するだけなら非常に簡単ですから、タイルの厚みさえ分かっていればこっちの方が良いような気さえしてきます。
こうした意見というのはきっと、実際の施工を考えずに図面だけでモノを考える側の意見なのでしょう。

こうした厳しい納まりを採用すると、敷きモルタルを施工する材料と手間がない分だけ、コスト的には有利な方向になっていきます。
しかしそういう有利なやり方があるにも関わらず、なぜ一般的な納まりとして敷きモルタルを施工しているのか。

そんな疑問が浮かんできますが、やはり必要なものを完全になくすことは難しい、ということなのでしょう。
敷きモルタルをなくす為には、コンクリートスラブを打設する際に、タイルの厚みをある程度決めておく必要があります。

そうしないとコンクリートのレベルを決めることが出来ないので、これはもう絶対に必要な条件になってきます。
だけど実際コンクリートを施工する段階では、どんな厚みのタイルを採用するのかは決まっていないことがほとんどです。

そうなると、50mm下げておいてどんなタイルにも対応出来るようにしておく、という考え方が理にかなっているんですよね。
上手いことタイルが決まれば敷きモルタルをなくすことが出来るけど、分厚いタイルになったらどうしようもない。

仕事ですからそんなイチかバチかみたいなやり方は出来ません。
そのあたりを考えていくと、コンクリートスラブの天端レベルはギリギリを狙うのではなく、少し余裕を持って下げておくというのが現実的な選択肢なんですよね。

また、敷きモルタルをなくして直仕上げをする場合には、コンクリートスラブ天端レベルに高い精度が必要になってきます。
ある程度は貼付けモルタルで吸収するとは言え、デコボコした状態のスラブにそのままタイルを貼っていくのは大変なんです。

そうした下地の精度を保つことの難しさと、施工段階でタイルの厚みが決まってこないという状況を色々考えると…
今回紹介したコンクリート直押えは、今のところはなかなか難易度が高い施工方法なのではないかと思えてきます。

メリットは結構あるとは思うんですけど、そのために必要な条件が厳しいというのが現実なんですよね。
将来タイルの素材が進化して、薄くて割れない素材が開発された場合には、ビニル床タイルのようなシンプルな納まりになるかも知れません。

そうなったら納まりとしては楽になることは間違いありませんが、タイルの存在感も一緒になくなってしまうような気もします。