標準サイズが決まっていると……

ALCや押出成形セメント板など、工場で製作して現場で取り付けるタイプの製品は、現場での施工がシンプルになるというメリットがあります。
しかしその分だけ事前の計画が重要になってくるというか、あらかじめ図面によって細かい部分についての検討を進めていく必要があります。

そうした検討を踏まえて、そこで決まった寸法で工場製作をかけていき、現場でその寸法通りにものが取り付けられていく。
この「現場でしか出来ないこと以外は他の場所でやる」という流れによって、建物をつくる工事はスムーズに進んでいくことになります。

ただ、そうやってスムーズに工事を進めていく為には色々と大変な部分もありますよ、という話を前回は取り上げてみました。
これはALCや押出成形セメント板に限った話ではなくて、全ての工場製作品でほぼ同じようなことが言えると思います。

もちろん鉄骨も同じ。
全然自分が関わっていない工事現場などを見ていると、鉄骨建方が始まったなと思ったら一気に建物が出来ていく、という感じがします。
でもそうして鉄骨を建てる前には、納まりを検討する担当者の苦労が色々とあるものです。

そして検討が足りないと、必要な部分に下地やピースが付いていない、ということになって、現場で溶接という大変かつ残念な話になる訳です。
逆に、きちんと細かい部分まで検討が出来ている状態で、適切に工場への発注が完了している現場は後でかなり楽が出来るはずです。

事前の検討がどこまで出来ているか、という部分が勝負になるので、やっぱり納まりを色々と知っておくことが大事になってきます。
さて、今回はそんなALCや押出成形セメント板についての話を、あと少しだけ続けてみたいと思います。


■寸法は自由なのか

ALCや押出成形セメント板にはどんな特徴があるのか、という話は前回までの説明で既に取り上げてきました。
先ほども少し書いた通り、こうした製品のメリットというのは結構たくさんあります。

それぞれの製品を取り扱っているメーカーのウェブサイトを調べてみると、製品のメリットがたくさん書かれていることに気付きます。
軽量・高い施工性・低コスト・耐火性能・などなど、RC壁なんて採用しなくても良いのではないか、と思ってしまうくらいのメリットがあるんです。

もちろん鉄筋コンクリートには鉄筋コンクリートの良さが別にあるので、メリットだけを切り取って比較するような乱暴なことは出来ませんが…
それでも様々なメリットを持った製品の選択肢がたくさんある、という状況は建築のプロとして非常に有り難いことだと思います。

製品メーカーさんのウェブサイトでそうした性能を色々と見ていくと、設計自由度の高さについても触れられている場合が結構あります。
製品として様々なサイズのラインナップがあるので、自由な設計が可能です、みたいなことがそこには書いている訳です。

しかし押出成形セメント板やALCの場合、寸法的な自由度はそれ程高くないのではないか、というのが私の個人的な感想です。

既製品は定尺が決まっている


■標準品を出来るだけ使いたい

ALCも押出成形セメント板も、規格寸法があらかじめ決まっている製品で、工場ではその規格寸法内で自由に製作することが出来ます。
規格寸法があるということは、そこまで自由ではないということを意味していて、一般的なパネルのサイズというのはもう大体決まっているんですよね。

ALCで言えば巾600mmの製品であり、押出成形セメント板の場合は製品同士に10mmの隙間が必要なので590mmの製品になります。
もちろん600mm巾だけしか製品として用意していない訳ではなく、やろうと思えば色々な幅の製品を作ることは可能です。

しかしコストのことを意識した場合、出来るだけ標準サイズのパネルを採用した方が有利、という制約がここで出てくる訳です。
例えば壁一面にALCを施工する場合には、壁全体を均等に割った結果の寸法として560mmのALCを製作したくなったとします。

しかしALCの規格寸法は600mmなので、それを全部560mmにするには余計な一手間がかかってしまうんです。
もちろん可能ではありますが、600mmのALC+残りの小さいALCとするのに比べると、当然コストは高くなってしまいます。

そうした規格寸法外の製品を工場で製作するのは不利なんです。
これは設計者・施工者側で気を付けなくても、「均等割にすること」みたいな要望をメーカーさんにした際に、勘弁して欲しいと言われて気がつくというパターンもあるかと思います。

全ての製品を同じ大きさにするよりも、標準サイズの600を出来るだけ使っていき、最後に余った部分で小さめのパネルを入れる方がコストは全然安い。
そうした常識がある中で、パネルのサイズは自由に設計する事が出来ますと言っても、それはあまり現実的ではないと言えるでしょう。

こうした工場製作をする製品には大抵の場合「標準品」があって、基本的にはその寸法を採用することが前提になる、という話でした。
ただ、標準寸法を採用したからと言って、見た目が悪くなるとかそうした話は全然ありません。

完全に自由なサイズとは言えないものの、基本的には標準寸法を使う考え方で問題はないので、そこは誤解のないように書いておきます。

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